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口にしつつ自分の台詞がぐさぐさ容赦なく突き刺さる。てかこれ、リアルに今の状況じゃん。どうなんだろ、やっぱり他の人を好きになっちゃったんなら仕方ないね、応援するよ、とか?応援してもらってもどうもならん状態ってのもこの世にはいっぱいあるわけだが。
「え、ちゆが好きになったのに振り向かないわけ?そんな男この世にいる?仮定がおかしくない?」
いえいえ君が知らないだけ。世間にはそんな男の人いっぱいいますよ、当然のことです。
首を捻りながらそんなことないだろ普通、とぶつぶつ呟き、でもあっさり言い放つ。
「てか、その場合。今と変わらないでしょ」
跳ね上がりそうになるのを懸命に抑える。
「え、どういうこと?」
こいつまで知ってたの?わたしの瀬戸さんへの気持ち。焦りまくるわたしの内面にも構わず、奴は平然と続けた。
「現状維持。今までと同じ。俺はちゆから離れない。…だってさ、ちゆは好きでたまらない相手がいるのに想いが叶わない状態なんだろ?絶対に放っとけないよ。そんなキツい時こそ、俺がそばにいないと」
…わたしはしばし黙り込んだ。ややあっておもむろに口を開く。
「えーと、でも。わたしは内心で他の人のこと好きな状態なんだよ。あんたとこうしててもその人のことが本当は好きなんだよ。そんなのいいの?なんか、耐え難くないか?」
ちょっとリアル過ぎて微妙な会話だ。でも忘れちゃいけない。これは奴にとってはあくまで仮定の話。わたしの念押しにさすがに竹田は軽く顔を歪めた。
「てか、してる時はちゃんと俺のこと考えてよ(考えてるよ、基本。例外はあのタクの移動教室前の一時だけだ)。そこは譲れないけど…。でも、辛い思いしてるちゆが一人でいること考えたら。俺みたいのでも、いないよりいる方が気が紛れていいだろ?俺は意外と平気だよ。ちゆのそばにいられさえすれば、少しでも支えになれる」
…わたしはそっと竹田の頬に自分の頬を寄せた。胸が微かに痛い。
そうか。わたしは今までずっとこいつを傷つけないように、辛い思いをさせないように気を配ってきたし。どういうわけかこいつを守らなきゃいけないものと思い込んで一生懸命だったけど。
奴の腕がわたしの肩を抱いて引き寄せ、髪を何度も撫でるのを感じる。こいつは本当はわたしが思うよりずっと強かったのかもしれない。実際には今まで守られていたのは、わたしの方だったのかもしれないな。
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