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というか、あまりにも態度が自然過ぎて、結局あの時のわたしの邪な気持ちが伝わってたのかどうか、今ひとつはっきりしないくらいだ。今更はっきりさせたい…、とも、あまり思わない。けど。
あまりに超然とした態度が時折少し憎らしい。この人とどうにかなりたい、という願望はさすがに捨てたけど、それでも少しはわたしの存在で揺らいで欲しい、ちょっとはわたしに目を留めてくれたら、って思いは残った。無駄なことだって自覚はあるので自分で制御はできるけど。でもきっぱり彼のことを思い切れた、ってほど簡単にはいかなかった。
多分卒業まであと一年半あまり、こんな風にうだうだと思い切り悪くこの人のそばから離れることもできずに過ごすんだろうなぁ。と想像するだにうんざりするが、もういい。これも青春だ。とわけのわからない開き直りでやり過ごすわたし。どうせ立山くんも失ってしまった。わたしの心が誰に向いてたって、それを知る人も咎める人もいない。とことんまでこの片恋と付き合ってやるんだ。
そんなわけで八月に入ったばかりのある夜、何かで瀬戸さんが何処からかもらってきた花火をタクと三人でやることになった。五年生になってもまだ子ども、結構きゃあきゃあ言って楽しみ(実はわたしもだ。割と久しぶりだった、花火なんて)、みんなで西瓜なんて食べたりしてすっかり夏を満喫した後、タクは満足そうにぱたりと眠りに落ちた。
時間はまだ言うほど遅くない。小学生はいいけど、大人には就寝するにはまだ早い。わたしはつかつかと冷蔵庫に近づき、以前仕込んでおいた缶ビールを数本、無言で取り出した。何となくキッチンに一緒に入ってきた瀬戸さんに向かって有無を言わさず手渡して勧める。
「どうぞ。…ビール、お嫌いですか?」
彼は穏やかに微笑んで、素直に受け取ってくれた。
「うん、いいですね。小川さんが用意しておいてくれたんですか?」
「そうですね、あんまり普段飲まないから…。どのくらい飲めるのか自分でもよくわからないんだけど。でも、一本くらいは大丈夫みたいです」
プシュ、と音を立てて缶を開け、軽く乾杯する。何かあったかな、と呟いて立ち上がった瀬戸さんが冷蔵庫を開ける。わたしも慌ててキッチンに立った。
「すみません、おつまみまで気が回らなくて。何か作りましょうか?」
瀬戸さんは近づくわたしを手で制してにっこり笑った。
「そんなことまで気にしない。小川さんは座ってて」
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