第17章 わたしの娘

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そう言ったなり冷蔵庫から手早く幾つかのものを見繕って取り出す。チーズとか、竹輪とか、胡瓜なんか。 「ビールを用意してくれただけで充分ですよ。お腹が空いてるわけじゃないし、寝る前だし、軽く適当なもので済ませましょう。僕らくらいの歳になるとね、あんまり遅い時間に食べるのはNGなんです。お腹が出てきちゃうんですよ」 出たおっさん発言。でも。わたしは失礼ながらまじまじとその立ち姿を見つめる。 「すごくすっとしてます、瀬戸さん。全然お腹なんか出てませんよ」 彼はこっちを見ずに肩を竦めて苦笑いを浮かべた。 「いやまあ…、若い時に較べると、どうしても。服着てると外からはあんまり…、わかんないかもですが。それに、油断するとあっという間に体重も増えるようになりましたし。昔はどんな時間帯に何食べても体型変わらなかったから、その辺無頓着だったな。小川さん、まだあんまり気にならないでしょ?」 わたしは首を傾げた。…まあ、確かに。 「割に夜遅くにがっつりしたもの食べても、そんなに影響ないですね。体質かなと思ってたけど」 瀬戸さんはちょっと意地悪くにやり、と笑みを浮かべた。 「まだカロリー消費量が多いんですね。でも、わかんないですよ。そういう体質の人ほど三十超えたら急に…ですから。それまで暴飲暴食でも平気だったから、節制の習慣がないんですよね。気をつけて下さい、そこら辺に分かれ道があります」 経験者は語る。なんか、リアルに迫ってくる話だ。ご忠告ありがとう。わたしは首を縮めた。 「気をつけます…」 三十超えたら。てことは、あと約十年後。…普通に考えたらその頃、わたしは瀬戸さんとは離ればなれだ。お互い何処で何してるかもわからない状態かもしれない。胸がぎゅっと締めつけられるように痛む。でも。 何かのきっかけでもしも会えることがあったなら。小川さん変わらないな、とか、綺麗になったな、と思って欲しい。だから…。 密かに胸の内で誓う。三十過ぎね。マジ気をつけよう。 結局ほとんど手を加えない、ありあわせのものをキッチンテーブルの上に並べて軽く酒盛りを始めるわたしたち。静かな夜に二人きり。親密な、穏やかな空気。幸せ。 胸がとくん、と鳴り、顔が綻ぶ。望みなんかなくたって、触れてもらえなくたっていい。こうして同じ空気の中に一緒にいられたら。 …そう思っていたのだが。
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