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…自分の目がとろんとしてきたのがわかる。今、何本目だっけ。この握ってる缶。
「わたし、今、何本目でしょう。…せとさん?」
彼は優しい声で答えてくれる。が、気のせいかその顔に浮かんでいるのは苦笑のような。
「えーとね、今三本目の途中です、小川さんは。確か六本パックを買ってきて下さったから」
「さんぼんですかぁ。未知の領域れす」
わたしは缶をぎゅっと握りしめてしみじみ呟いた。
「前にね、立山くんと二人で飲んだことがあったんれす。ホテルの部屋で。その時に限界確認する?って訊かれたんれすけど。次の朝が舞台装置撤収の作業らったんで、ほどほどに…ってことになって。れも、初めてそこでひと缶全部飲んだけど大丈夫でしたよ。びーるってあんまり酔わないんすね」
「割と酔ってますよ、小川さん。その時に限界確認しなくてよかったですね。男の子と二人の時は気をつけて下さい。三缶はちょっと止めといた方がいいかな」
「…立山くんは」
そんなんじゃないすよ。と言えなくなったことを酔っ払いの頭で理解する。あの時このくらい酔ってたら、『間違い』が起こってたのかな。今となっては。
…わからない…。
「でも、立山くんなら大丈夫かな。竹田くんもだけど、あなたを真剣に大切にしてくれる人だから。何も起こらないとは言えなくても、あなたを傷つけたりすることはないでしょう。…本当はそこまで口出しすべきじゃないんだろうけど、やっぱりあなたを安心して任せられる男の子と幸せになって欲しいですから。彼らならどちらでもきっと大丈夫ですね」
何言ってるの瀬戸さん。
…わたしが本当に欲しいのは。あの二人を蔑ろにするわけじゃない。でも、自分の気持ちに嘘もつけない。
本当はこんな風に穏やかにそばにいるだけじゃ嫌だ。もっと近く、触れ合いたい。その手のひらでわたしの腕を掴んで欲しい。髪を撫でて、頭を引き寄せて欲しい。唇を重ねて、開いて交わりたい。甘いため息をついてわたしの上に体重をかけてくれたら…。
わたしにとって幸いなことに、この時点で既に口は回らなくなっていた。頭も朦朧として身体を起こしていられない。気がつくとキッチンテーブルの上で腕の中に顔を埋めて突っ伏していた。
自分の状況はわかるのに、もう動けない。
周りの物音や気配も全てわかる。でも自分をコントロールはできない。酔っ払ってるっていうよりこれはむしろ金縛りに似ている。
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