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わたしを両腕できゅっと抱きしめる。
「まさかここにいるって思わなかったから。ちゃんと連絡してよ」
…ああ、またやっちゃった。どうしてこう心配ばっかかけちゃうんだろう。
…でも、あの時顔を合わせて何かを察知されるわけには。どうしてもそれはできなかった…。
わたしは竹田の背中に腕を回した。
「ごめんね、ちょっと休んだらすぐに回復して起きられるつもりだったから。…まさかこんな時間まで眠り込んじゃうって思わなくて」
奴はわたしを仰向けさせて柔らかく唇を重ねた。
「仕方ないよ。…調子悪かったんだから。気が回らなかったんだろ。こうやってちゃんと無事で見つかったんだから、いいよ…」
ベッドにぱふん、と倒れこみ甘く身体をすり寄せてくる。わたしは身じろぎした。
「…するの?」
「いや、お前調子悪いんだろ。大丈夫、こんな時無理強いしないよ。休んだ方がいい」
「うん…」
わたしは彼に頬を押しつけた。なんて優しい奴なんだろう。
わたしにはこいつにこんなに大切にしてもらえる資格なんか、本当はないんだろうな。他の男の人のところに決死の覚悟で抱かれに行った。何もなかったのは向こうがわたしに見向きもしなかったからで、もしも瀬戸さんがわたしに哀れを催して同情で手を差し伸べてでもいたら、わたしはこいつのことも忘れて喜んでその腕に飛び込んだと思う。
…でも、そのことを告げることも、こいつを結局傷つけることになるだろう。正直になって、自分だけ楽になればいいってもんじゃない。
それに。竹田の温かい腕の中でわたしは痛みをこらえるように目を閉じた。そのことに対する罰は既に受けてる。自分の後先考えない無分別な行動のせいで、大事な人を失った。
もうあの人がわたしの隣にいない。
喉の奥が抑えきれず震える。…いけない、今、感情を露わにしたら。竹田に異変を感づかれる。
せめてこいつだけは何事もなく、平和な気持ちでこのまま過ごして欲しい。実際にあったことを全部知る必要なんかないでしょ?
優しい唇を何度も受けながら思う。でも、それって本当にこいつのためなのかな。
わたしは今、こいつに去られて一人になりたくないだけなんじゃないのかな。立山くんだけじゃなく、こいつにまで見放されたらどうしていいかわからない。そんな気持ちがないとは言い切れないかも…。
「ちゆ、お腹空いてないか?昼はちゃんと食った?」
竹田がふと思いついたように気遣う。
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