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「…そうか、ずっと寝てたから。食べ損ねちゃった…」
本当に気絶したみたいに寝入ってたんだな。空腹にも全然気づかなかった。
「もうそろそろ夕飯の時間だよ。少し早めだけど、食べに行く?それともだるくて動きたくないんなら、何か買ってきてやろうか?」
一瞬息を詰めるように考える。いつもなら跳ね起きて行く行く!と答えるところだけど。
まさかの事態だが、今ひとつ食欲ってものがない。お昼を抜いたっていうのに。実際は胃の辺りが変に攣れたように痛い。多分これは空腹感なんだと思うけど。
「…ごめん、何か買ってきてもらってもいい?」
「いいよ、勿論。やっぱり少し身体きついのか。何食いたい?それとも食欲なければ、医務室に今からでも行くか」
わたしは首を横に振った。この胃を噛むような痛みからすると、身体はそれなりに健康でいつも通り大量の食事を要求しているようだ。ということは、この食欲のなさは身体的なものというより、精神的な要因に由来してるに違いない。
「多分、何かお腹に入れて今晩だけゆっくり休めばまた元気になれると思う。…やっぱ、自分で思ってたより疲れてるのかも。ごめんね、そんな理由でこんなに大袈裟なことになって」
竹田はわたしの身体を優しく両腕で包み込んだ。
「そんなに謝るなって。お前は頑張り過ぎなんだよ。がむしゃらってか、加減を知らないってか、程々ってもんがないんだから…。まだ九月の公演までずいぶん間があるぞ。飛ばし過ぎるなよ。じゃあ、何か買ってくるけど。食いたいもんとかある?」
特にない、と口にしかけて飲み込む。わたしがどんだけ食うか熟知してる奴だ。なんでもいいよなんて言った日にゃ、絶対不審に思われる。でも。
…がっつり揚げ物って気分でもないし…。
「…なんか、麺類とか。喉越しの良さそうなもの…」
出てきた言葉がこれ。結局『食欲がない』って言ったのと同じことになった気がするが。竹田は素直に頷いて立ち上がった。
「OK。何か消化のよさそうなもん買ってくるよ」
わたしの頭を引き寄せて軽く唇にキスして、そのまま寝てろよ、と一言残し部屋を出て行った。
…わたしはばふん、とベッドの上に仰向けに倒れ、天井を仰いで大きく息をついた。
こうやって実際あったことを隠したままあいつのそばにいるのも何だか後ろめたい気分だ。でも。
むくっと上体を起こし、膝を抱えて丸くなってうずくまる。
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