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力の抜けた身体を痙攣させながら、快感の名残を愉しむように互いの肌を甘くすり寄せ合った。
「…嘉文」
口が軽くなったのは我を忘れるほどよかったセックスの余韻か。…それとも、もうこいつに対して疚しく感じるものが何一つなくなったから、かえって自制してたものの重みが外れたのか。
「もしもさ。…いつか、わたしに他に好きな人ができないとも限らないでしょ。その時はどうする?」
相手をぶちのめす。殴る。ぶち殺す(物騒だ)。あるいは、わたしを殺して自分も死ぬ。剣呑な答えがわたしの脳裏をよぎる。思ったよりあっけらかんとした声で奴は問い返してきた。
「ん?…それって、片思いの場合?それとも誰かと相思相愛になった状態?」
「あ、それによって回答が違うの」
そんなにちゃんと考えた設問でもなかった。セックスの余韻の中でのふとした思いつきだもんな。わたしはそれでも適当に口にしてみる。
「んじゃ、もしわたしが他の人を好きになってさ。相手もわたしのこと好きだってことになったら?」
一瞬立山くんがよぎるがすぐに打ち消す。もうそういう未来図はない。やっぱり重ねて胴四つに斬って捨てるとかですかね。どうせ言葉だけだし過激なこと言い放題だ。嘉文はわたしの身体をぴったりと抱き寄せ、髪に顔を埋めてくぐもった声で言った。
「それはだって…、仕方ないよ。ちゆが幸せになるんだったらさ」
「…え?」
仮定の話とはいえ。わたしはぽかんとした。
「それって、わたしのことを諦めるってこと?そんな簡単に出来んの」
奴の腕にきつく力がこもった。思わずむせるくらい苦しい。あ、ごめん、と慌てて力を抜き、優しい静かな声で続けた。
「簡単じゃないよ。…簡単なんかじゃない。そこは忘れないで。でも、ちゆが幸せになれるってわかってるのに、自分のエゴで妨害するなんて。…そんなことできないよ…」
わたしは胸を衝かれて顔をあげ、奴の目を見た。静かな光を浮かべて見返してきた。…そうか。
実際にそういう事態になったらそう綺麗に割り切れるかわからない。でも、仮定の話の時点では、こいつはそういう風に考えてくれてるってことなんだな。
ちょっと全身がきゅんとした。図らずも珍しくときめいてしまった自分を誤魔化すように慌てて軽い口調で続ける。
「えーと、じゃあさ。片思いの場合。向こうからわたしが一顧だにされなくて、それでもどうしてもその人が好きになっちゃった場合は?どうすんの?」
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