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りにも異様な光景に六部が事情を聞こうと村人に近寄るも、村人たちは視線をあわせよともせず畑仕事を打ち切り、家の中に隠れてしまわれた。
六部はやむなく野宿にて一晩過ごすべく、河原に藁を敷き詰め早々に眠ることにした。目をつむり体を休ませていると、ズリズリと何かが地面を引きずる音が聞こえてくる。それに加え先ほどから
背中や尻がしきりに痛む。身に覚えのない痛みで目をあけると何者かが足首をつかみ河原を
引きずっているのだ。
昼間に咎めた子どもたちのイタズラだろうか。それにしては度が過ぎている。
「何者だ」
六部は数珠を握りしめ、正体を突き詰めようと腹の底から声を出すと、得体も知れぬ何かが微笑みながらこちらを見ている。しかしその者には目もなければ鼻も口もない。それでも微笑みかけられたとは思わずにいられない。
六部は逃れるべく必死にあらがった。しかしどんなに抵抗しても足首を掴む手が緩むことは
なかった。
そうこうしている内に六部は引きずられながら、橋の上まで来ていた。六部は恐怖でガチガチと
震えたが、得体の知れぬ何かは無慈悲にも六部を橋の上から突き落とした。橋から落とされている
最中、六部は村人たちの言葉を思い出した。
「カクラサマの祟りだ」
思い出しきった頃にはすでに遅く、川底の岩に頭を強く打ちつけ意識を失い、為すすべもなく
下流への流されていく。
翌朝になり葦の葉に絡まりながら死んでいる六部の遺体が川べりへとあがった。
村人たちは手をあわせ、カクラサマの祟りだといって遠くから眺めている。するとひとりの
子どもが祖父に尋ねた。
「カクラサマってどんな神様」
「たいそう子ども好きな里の神様でな。子どもと遊んでいるのを邪魔されると、あぁやって
あの世さ、連れて行っちまうんだ」
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