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「あら?何してるの?」
「あ、店長!おはようございます!」
うわぁ…マズい。店長だ…
「何してるの?二人で朝から手握り合って、見詰め合って…」
「いえ、あの…」
「すみません、俺がこれ、割っちゃって…」
未だ片付いていない床に視線を落とし、向井くんが店長に事の成り行きを説明する。
「仕方ないなぁ向井くんは…分かったから、片付けて?椿さんも、もう大丈夫よね?」
「はい、すみません…」
「ほら、開店準備しなきゃ、向井くん、今日もよろしく頼むわよ!」
「はい!店長!」
な~にが「はい!店長!」よ!
お調子者、っていうか店長も分かりやすいのよね?
そう、彼は店長の一番のお気に入り 。
噂によると、店長はその地位と美貌とお色気で向井くんに迫っているらしい。
向井くんも店長の前じゃ、いつもニコニコ愛想振り撒いちゃって、満更でもないみたい。
だもんやっぱり違うよね?さっきのはただの勘違い。
彼が王子様だなんて、あ、り、え、な、い。
.
それから数日後___
「真子さん、それ俺押してきますから、真子さんは休んでて!」
「え?あ、そう?」
本店から届いたコーヒー豆を台車に乗せてバックヤードを歩いていると、丁度休憩から戻って来た彼にそう声を掛けられた。
「ありがとう…」
「これくらいお安い御用ですよ!だって俺、キズモノにしちゃったし!」
「は?だから…」
「真子さん、休憩行ってください!」
はぁ…だからキズモノって…
もうとっくに傷、治ってるんだけどな…
また溜め息を吐いて、小走りで台車を押していく彼の後ろ姿をなんとなく目で追った。
あの後ろ姿は完璧なんだよね…
黒いパンツの腰のライン…細身なのに背中が大きくて、力もあって。
…なんて思った矢先…
(ガタンッ!バサバサッ!)
「あっ…」
『うわっ!やっべー!またやっちゃった!』
ねぇ、嘘でしょ…?
彼が押していた台車から、何故か袋が崩れて落ちて
大事な商品であるコーヒー豆が、見事なまでに飛び散った。
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