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「向井くん、君さぁ、何してるの?」
「いや~、お年寄りがぁ、お店の場所が分かんないって…」
彼の話によると…
お店の外で、ランチタイムに並ぶお客様用の丸椅子を片付けていたら、お年寄りに呉服店の場所を聞かれ
「荷物もいっぱい持ってたしぃ、おばあさん腰曲がってるしぃ、呉服屋さんなんかどこにあるか俺も分かんなかったしぃ、インフォメーションに案内した方が早いかな~って」と思い、持ち場を離れて案内してきたそうで。
「そっか、それはいいことをしたね?」
「そうかなぁ?いや、でも当たり前の事をしたまでですよ?」
ドヤ顔だね、向井くん…
「うん、だけどね?お店を離れるときは『三番(トイレ)行って来ます』とか『お客様をご案内してきます』とか一言言ってから行かなきゃダメでしょ?心配するし」
「え?心配してくれてたの?ごめんなさい、心配掛けちゃって…」
…うん、心配…の方じゃなくて、君に今最も伝えたいのは前者の方なんだけどな…はぁ…
「うん、もういいよ…あ、そうそう、店長探してたよ?」
「え?マジで?」
何よ?その困った様な顔は。
いいじゃない、気に入られてるんだしイチャイチャしてくれば。
「バックヤードにいるんじゃない?」
「うん、じゃあ俺ちょっと行ってきます…
真子さん一人で大丈夫?」
「大丈夫よ、今お客さん落ち着いてるし」
いいわよ、心配しなくても。早く店長の所に行きなさいよ…
「あ!」
「なに?」
背中を向けた彼に心の中で呟くと、何かを思い出した様に立ち止まった。
「真子さん、これあげる!」
「なあに?」
手を出すと、そこにアメ玉が一つ。
「さっきのおばあさんがお礼にくれたの、アメちゃんあげるって」
「え?もらっていいの?ありがとう」
カンロ飴か…
懐かしい、私にくれるの?
やっぱり可愛いな、この子…
「うん、真子さんにあげるよ。俺キズモノにしちゃったし」
「はぁ?だーかーらーっ!」
「うはは!行ってきまーす!」
逃げるように走って行く彼。
イタズラした子供みたいに無邪気に笑う彼はやっぱり可愛いくて、憎みきれない、と言うか…
正直、店長の所に行ってしまった彼に、言葉じゃ表せないような寂しさを憶えていた。
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