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「真子さん、休憩一緒に行きましょうよ?」
そう誘われたのは、その日の夕方。
遅番で出勤した私は休憩に行く途中で、早番で来ていた彼は丁度バイトが終わった所だった。
「向井くんもう終わりでしょ?帰りなさいよ」
「そんな冷たい事言わないで下さいよ。ちょっと話があるんで、付き合いますよ」
「…話?なあに?」
「いいから!」
そう言われて彼と社食に向かう。
話ってどうせあれでしょ?
『俺店長と付き合ってるんですよ』とか言って、どうせノロケるんでしょ?
そんな話なら聞きたくないんだけど…
そんな事を考えながら、彼と社食に向かう。
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社員食堂は三階にあり、一階のお店からは、バックヤードを通り非常階段兼、従業員用の階段を上がらなければならない。
エレベーターもあるけど荷物の搬入でしか使えない決まりだから、基本従業員は階段を使う。
運動不足の私にはただでさえ億劫な作業なのに、気分が滅入っているのも手伝って、今日は足取りが特に重い。
『向井くーん?…向井くーん?』
あれ?この声…
すると、その階段を上がる途中で、階下から向井くんを呼ぶ声が聞こえてきた。
『…向井くーん?いないのー?』
声の主は店長で、呼ばれてるのに聞こえていないのか、無反応な彼に教えてあげるべきか一瞬迷う。
『向井くーん?』
だけど何度も呼ぶ声に、流石に知らん顔は出来なくて、仕方なく彼に声を掛けた。
「ねぇ、向井くん。呼んでるよ?店長…」
「あはは、やっぱり?」
やっぱりって…気付いてたの?
だけど彼は苦笑いで、止まる気配がない。
「いいの?行かなくて…」
『向井くーん?いるんでしょ?』
店長の声が段々近付いてくる。
「どうしよっかなー…」
「え?どうしよっかなって?」
「真子さん、行こう!」
「は?えっ!?」
数段先の踊場にいた彼が、振り返って突然私の手を掴んで走り出した。
「待って、何で?」
「いいから、早く!」
ワケが分からないままグイグイ引っ張られて、着いていくのに必死だった。
「待って、もう無理…走れない」
だから運動不足なんだってば!
息が苦しくて、足が重たくて走れない…
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