短編集～市～

笑み

居酒屋で友達とホラートークをしていた時の話。

「そう言えば、昔から女の幽霊ってさ、自分の男を怨むよね」

「そうだな。浮気相手とか、奥さんを怨む話ってあまりないな」

「酷い振られ方されて怨むっていうのもわかるけど、男だったら、まず相手を怨むじゃん」

「『俺の女とりやがって！』とか？」

「そうそう。あれって何だろう？一度は愛したはずなのに、殺したくなるくらい憎くなれるのかな？」

「女心は変わりやすいって言うからな」

その時、おかみさんが初めて口を開いた。
「そういうこともあるかもしれませんけど…」そして驚くほど冷たい笑みを浮かべながら「それは男の人の考え方であって、女の考え方ではありませんわ」

その時のおかみさんの眼は今でも忘れられない。