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僕も釣られるように空を見上げる。
雲は大きい。再び顔を出すのは随分と先になると思った。
明菜はどうして僕をこんなにも好きになってしまったのか。愛してしまったのか。
そして僕はどうしてこんなに愛してくれる彼女を一番に選べなかったのか。
未だに結衣を心に置いてしまっているのか。
その時はそんな風に考えていた。
僕の為に動いてくれようとする彼女に対して、自分がとても情けなく感じていた。
「やっぱり言わなくていいよ。このまま付き合ったままでいよう。今君にまで離れられたら僕はどうにかなりそうだから」
彼女に返したそれは張りぼてだった。
あたかも自分の為にそうしてくれと言っているようだが、実は違った。
彼女のことを気遣って言った。
それを自分の為に言ってるように装ったのだ。
明菜の為にそうした。
明菜をこれ以上傷付けたくなかった。
しかしそれもまた間違いだったと、彼女の悲しそうな目と貼り付けた笑顔を見てようやく知った。
光太の拙い演技では限界だったのだ。
しかし明菜の演技も同じように拙かった。
彼女は僕の作り物に気付いた上で手を握ってくる。
「私から離れることはないよ。私は光太が好きだから。ずっとずっと好きだったから
。これからもずっと好きだから。それは付き合ってなくてもきっと変わらないから。
だからね……」
彼女はグスっと鼻を啜る。目を擦り、必死に隠す。けれど次々と流れる。彼女の涙腺は既に限界だった。今迄我慢していたせいか、止まりそうにない涙を必死に擦る明菜を僕は抱きしめた。
「ごめんね……」
謝る彼女に僕は首を横に振る。
彼女は何も悪くないのだ。彼女は純粋に僕が好きだった。そんな気持ちも知らずに僕は練習だなんて晋助の言葉に乗せられてしまった。
悪いのは僕なのだ。
好きでもないのに告白した僕が悪いのだ。
「ごめん」
僕は抱き締めたまま、彼女と同じように謝る。それは彼女の謝罪とは異なり、大きな意味を持っていることに言ってから気が付いた。
もう後には引けない。
「本当にごめん」
その意味を噛み締めた上で、僕はもう一度言った。
明菜は声を出して泣いた。
僕も大きな声を出して泣いた。
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