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目指す場所は屋上。
卒業式の日に男子が女子の手を引いて向かう所など、そこしか考えられなかった。
けれども晋助が?
まさか。
屋上に向かう自分を、心は必死に否定していた。
晋助が結衣のことを好いているだなんて聞いたことがない。
もちろん結衣が晋助のことを好いているということもだ。
それに晋助は、僕が結衣に好意を抱いていることを知っているんだ。
今は流れから明菜と付き合うことになったが、その流れだって晋助が告白の練習を……
そこまで思考し、僕は強烈な違和感に包まれた。しかしこの段階ではまだ、その違和感の正体には気付いていなかった。
階段を上りきったところで荒れている息を整え、扉を開ける。
明菜に告白して以来の屋上。
青空に囲まれた景色が広がる。その景色に同居するように、馴染みの深い男女が二人きりで対峙していた。
「結衣、好きだ」
晋助の声は良く響く。
空気を震わせ、その揺れは僕の耳にも伝わった。僕は見ているのが辛くなり、二人に背中を向けて腰を下ろす。
晋助、お前は今僕に対してどんな想いを持って、結衣の前にいるんだ。いつから好きだったんだ。何故一言声をかけてくれなかった。
「ごめん。晋助。私には好きな人がいるの」
結衣の返答は予想通りだった。
それは僕だろう。
知っている。知っているんだ。
「しかし、その好きな人には彼女がいるのではないか?」
「それは……」
そのやり取りを聞き、僕は手が震えた。
全てを理解した瞬間だった。
違和感の正体を突き詰めてしまった。
そうか晋助。お前は。
頭に血が上り、晋助を殴ってやろうと僕は立ち上がって振り向く。
そして見えた光景に、僕は固まった。
結衣の唇を奪う晋助。
晋助は初キスはまだだと言っていた。
俺たちは同志だな、と僕に言っていた。
その晋助が、僕の好きな人と。さらには晋助自身が好きな人と初めての接吻をしている。
僕が晋助の所為で好きな人と出来なかった初めてを。
晋助は心置きなく結衣に捧げていたのである。
僕は崩れるように座り込んだ。
唇を離した晋助が、結衣の頭を撫でる。
「もう俺でいいだろ。結衣。俺は結衣だけを愛し続けると誓うよ」
二人が滲む。
僕の想いが頬を伝い、地面に落ちていく。
揺れる自分を何とか抑えて僕は立ち上がった。
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