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この場から一刻も早く逃げ出すために扉の取っ手を掴む。
僕の手は本能に従い、これ以上は見るべきではないと焦りながら扉を閉めようとしたのだ。
そこで突然別の手が重ねられる。
その別の手の持ち主に驚いた僕は、扉を閉めることに失敗した。
半分開いた扉の隙間から結衣が頷くのが見える。
二人はもう一度、今度はお互いの意志で唇を重ね合う。
それは僕が見たことの無い結衣であり、こんな形で見ることになるとは思いもよらなかった結衣だった。
そんな結衣をまざまざと見せ付けられた僕は嗚咽を漏らし泣いていた。
口の中を噛んで声だけは何とか出ないようにしながら、足を震わせ、手を震わせ、頭も心も全てを震わせて、僕は泣いていた。
「そっか。そういうことだったのか」
僕が扉を閉めるのを邪魔した手もまた、震えていた。
だけど彼女は泣いてはいなかった。
彼女もまた、僕への愛を利用された被害者だったというのに。
~~
僕と明菜はすぐにその場を立ち去り、階段を降りた。
教室にはまだクラスメイトがたくさん残っていたが、戻る気にはならなかった。
僕らはそのまま校門を出て、土手を歩いた。それまでの間、どちらも言葉を発しようとはしなかった。
~~
やっと嗚咽が収まり、話が出来る状態になってきた僕をチラっと見て、明菜はやっと口を開いた。
お喋りな女子である明菜がここまで我慢してくれたところに、彼女の偉大な優しさが垣間見える。自分のことで精一杯だったあの時の僕には見えなかったが。
「ねぇ。付き合っていたこと、間違いだったってみんなに言っとくね」
その時の明菜は妙に淡々としていた。
今思えばそれも、僕を思ってのことだったのだろうと思う。
僕は明菜の言葉に首を横に振った。
「言わなくていいよ。それってなんか、物凄く辛いじゃないか」
明菜は作り笑いをする。
それはとても下手な作り笑いだった。
「私は平気だよ。それにもともと私の勘違いから始まっちゃった感じだしね。
ずっと付き合ってるってことになっちゃう方が光太に悪いし、辛そうな光太を見るのが私は一番辛いから」
眩しい陽射し浴びせていた太陽が雲に隠れる。明菜は急に顔を隠した彼を、無機質な瞳で見上げた。
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