1人が本棚に入れています
本棚に追加
「あ、日向君。今ね、」
「てゆうかさぁ!」
俺と楽しげに話していた延長線上で日向に話しかける千代ちゃんだったが日向は声をかぶせてチラリと机の上にある漫画に目を向けた。
そして勝手にそれを手に取るや否や、
「お前さぁ、千代にこんなもん見せてんなよ。キッショい漫画オタクがよ。千代はこんなもん好きでも何でもねーんだよ」
「っ、」
手にした漫画がさも薄汚いものであるように俺の顔に投げつけた。酷い言い草にも腹が立った。
まるで千代ちゃんの彼氏ヅラでもしているような喋り方に俺は苛立ちを隠せなかったがクラス内ヒエラルキーでは下位の者が上位の者にたて突くとろくな事が起こらない。
「何、やんのー?」
教室中に聞こえるように大きな声で日向は言った。まるで見世物にでもしようとしているのか。いや、そうなのだろう。
これだからリア充は嫌いなんだ。
単体では静まり返ってるくせに群れると急に威張り出す。そんな仕様もない奴らを見てると反吐が出る。
歯向いたくもなる。
俺は拳を作り、大きく静かに深呼吸した。
眦を決した俺だったが千代ちゃんの声で我に返る。
「メグル君、日向君。止めようよ」
眉を八の字に曲げ、心配したような顔をする千代ちゃんの弱々しい声を聞いて一瞬にして血の気が引いた。
好きな子を前に事を荒立てることは出来ない。
「何でもない。悪かったね、次からはこんな物、持ってこないよ」
日向の価値観を借りて俺は自分に嘘を吐いてそう返した。日向たちは蔑むような笑みを浮かべ、従順な俺を見下す。
「はっ。弱いくせに調子乗んなよ。ギャハハ!」
こいつらマジでムカつくな。
何とかこの場を堪えると日向たちは去ってくれた。
あいつらの高笑いが遠ざかっていくに連れてその無防備な背後に思い切り蹴りを入れたくなったが千代ちゃんが俺の制服の袖をちょんと摘んできて、気が削がれる。
「ん?」
「ごめんね、私のせいで巻き込んじゃって」
千代ちゃんは今にも泣きそうなくらい瞳を潤ませていて、やり場の無い怒りが込み上げてくる。
でもここは彼女を励ますのが正しい接し方というものだ。怒りを殺して穏やかな口調を努めて言った。
「ううん、千代ちゃんは何にも悪くないよ」
それでも千代ちゃんの表情は優れない。
最初のコメントを投稿しよう!