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「親友と好きな人の取り合いをしたの?」
「わあ!」
体の向きを変える。エレベーターホールに行こうとしたのだ。ハデスが立っていた。さっきの話を聞いていたようだ。恰好を見て、彼は目を丸くしたものの。何も言わなかった。
「同じ土俵に上がっていたら、もっと吹っ切れていたんだろうなあ。…彼につきまとっていた女に恐れをなして告白できなかった」
後悔している、今も。告白しなかった事を。裏側を知ったから、なお。告ったとしても、付き合えなかったと分かっても。
「何を恐れたの」
「食べてもらえないと分かっているのに、お弁当を作って渡し続ける彼女が怖かった。励ます彼女の友人達も」
登下校、一緒にいれば。手作りの菓子も渡していれば。勘違いもする。二人が付き合っている、と。実際は、彼女が告白して、彼が振っていた。弁当と菓子は、気に入らないと思っている人達が、取り上げて食べてしまった。
「ケータイのメアドを聞く…」
「彼は複雑な家庭環境で育ってね。持ってはいたんだけど、監視されているみたいだからって。電源を切って、部屋のどこかに放ってあるらしい」
打つ手がなかった。通ってる学校が違う。自分は女子校、彼は男子校。古典的な手紙も、手作りも買った物も受け取らなかった。
彼女は諦めきれなかったのだ、と今では分かる。他の子への牽制だけでなく。方針を変えた。母親代わりになろうとしたのだろう。日々の弁当作りが物語っていた。世話したくなる容姿を彼はしていた。
あわよくば、付き合える。自らの欲を満たした上での、彼のための行為。たとえ、拒否され続けても、いつか、彼の心に届くと信じて。
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