第1章

22/66
78人が本棚に入れています
本棚に追加
/66ページ
 オムツを嫌がらなくなったことで、失禁の後始末に煩わされることもなくなった。これもナミの影響だった。ナミはオムツを忠史の欲情を放出する場として利用した。緩めたオムツの中で忠史の欲求を煽り、そこに思い切り射精させることで、快楽へと繋がる道具の一つとして認識させたらしい。おかげで認知症の症状がひどくない時でも、忠史は自らオムツをするようになった。ただ、一人でトイレに行けるのに、嬉々としてオムツをしているのが訪問介護のヘルパーには納得いかないようで、澤木も理由を尋ねられたが、「わかりません」と、とぼけるしかなかった。  ナミは週に一、二回来て忠史の性的欲求を晴らし、聞くに堪えない下ネタにも適当につき合ってくれていた。  「申し訳ない」  忠史が下ネタを話すのは、たいてい頭がはっきりしている時だと知っている澤木は、帰り際、ナミに謝った。 「何のこと?」 「下ネタ……不愉快だろ……セクハラだよな」  ナミは一瞬きょとんとすると、おかしそうにけらけら笑った。 「私、毎回それ以上のこと、してると思うんだけど」 「いや、そうだけど、あれは頭がボケてる時で……」  ナミにとっては、どちらも認知症患者の対応に変わりないのだろう。だが、澤木が忠史の下ネタについてだけ敏感になったのは、ナミの手技については、自分も性的興奮を間接的に享受しているからに他ならなかった。 「そうだな。本当に、いろいろすまないと思ってる」  羞恥心で顔を赤らめた澤木に、ナミは言った。 「できるだけ話し相手になってあげたほうが良いと思う。お父さんの興味のあることとか……男同士なら下ネタも平気でしょ」
/66ページ

最初のコメントを投稿しよう!