第1章

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 そんな状態が続いても、花恵が忠史を責めることはなかった。二人の間に何があったのか、何が欠けていたのかは、今でも澤木にはわからない。ただ、再婚して間もない頃、花恵を婚約者から略奪したのだと、忠史が自慢げに話していたことがあった。  「あんな男と再婚しなくて、花恵は良かったんだぞ。ああいうのは、男としてダメだ。女を幸せにできない」  四人で食卓を囲んでいた時だった。二本目の徳利を空けると、忠史が気分良さそうに言った。酔った忠史には、何を言っても通じない。面倒な話に巻き込まれる前に退散しようと、澤木はひたすら茶碗の中の飯をかき込んだ。 「どんなにデカイ会社に勤めていたって、小間使いがいいところだ。第一、ああいう肝っ玉が小さい男は、あっちもショボイもんだ。花恵が俺を選んだのは、俺のアレが良かったからだろ。なあ、花恵」  花恵は何も言わずに俯いた。思春期の子どもたちがいる前で、どう反応すべきか困惑していたのだろう。澤木は、花恵が気の毒だった。そして、小さな会社の出世コースにも乗れない忠史が、自身の男性器に自信があるというだけで、男として秀でているかのように誇ることが不可解だった。
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