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6月の中旬。
季節変わりの風が、蜂蜜色に染まる髪の毛をサラサラと撫でていく。
歩き疲れて鉛のように重たい足
その足で砂利を踏みしめると、じんわりと額に浮かんだ汗が落ちて、石にシミをつくった。
「はぁ....」
遙か昔、この日本には【妖怪】と呼ばれる生き物が、人間と肩を並べて暮らしていたらしい。
でもいつの日か人間達は大地を削り、海を汚し、空を忘れてしまった。
それを境に妖怪は人間を見切り、今では敵対する存在になってしまったのだ。
人間は【陽】
妖怪は【陰】
誰が決めたわけでも無く、世界の理は、自然とそう導いた。
「ありえねぇよなぁ」
なぜ急に【妖怪】等といった非現実的な話をしているかというと、俺はその【妖怪】と言われる存在らしい。
その中でも、皆がよく知る【鬼】という妖怪なんだって。
皆の頭の中にはてなマークが浮かんだと思う。
大丈夫、俺の頭の中も今そんな状態。
始まりは、約1ヶ月前の、俺の誕生日だった。
ようやく新しいクラスにも慣れ始め、新たに始まる生活を楽しみにしていた頃に、俺は17歳の誕生日を迎えた。
特別何をするでもなく、学校で友人に祝われ、普通の誕生日を過ごす予定だった。
そんな俺の前に不意に現れたのは、クラスメートの川嶋だった。
川嶋とはよく話す方だし、時々一緒に帰ったりする仲だった。だが、俺たちの関係を変えてしまったのが、川嶋の一言だ。
川嶋は特に前置きをする訳でもなく、「お前、今日なんかエロくね?」と、恐ろしい言葉を口にした。
は?
と思うか思わないかの間に、川嶋の顔がすぐ近くまで迫っていて、完全に熱のこもったその視線に、( これはやべえ )と、頭の中に警報が鳴り響いた。
幸いにもその日は何とか川嶋から逃れて帰宅することが出来たが、その日からが地獄の始まりだった。
昨日まで一緒にゲームをしてた友達、一緒にお昼を食べてた友達。或いは知らない人等に、一斉に【そういう目】で見られるようになってしまったのだ。
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