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「ん...お前、十朱若葉で間違いねぇが?」
耳に届いたのは、激しい訛りを伴う独特のイントネーションと、その厳つい顔つきにぴったりマッチした男らしい低音だった。
「は...い」
やっとの事で絞り出した掠れ声に、目の前の男が微かに目を細める。
「ん...。そんなに怯えることねぇ。俺はお前を取って食わんでの。俺はサトリっち妖怪での。鬼は喰わん」
「...サト...リ...?」
「...知らねぇだが?サトリもちっとは有名になったど思っでだでの。まだまだっち事だべなぁ」
「......」
あぁ、そう言えば
どこかで聞いたことがあったかも知れない。
目があった人の心を読み、悪戯をする妖怪がいるってこと。
「...お前の考えてること、全部わかるでの。だが勘違いされちゃ困るでなぁ。俺は悪戯を好まないし、人の心を読むのも好きでねぇど。妖怪にだって、性格っちもんがあるでの」
男の人が、軽く笑った気がした。
「...ん。自己紹介が遅れたでな。俺は、信楽右京っちもんだ。田舎者だで、ちと訛ってるのは慣れてくれ。中々訛りが抜けねぇでの。まあ、よろしく頼むでな」
頭をポンっと叩かれ、わしゃわしゃと撫でられる。
「......、え?」
突然のことに固まっていると、男は笑いながら撫でる手を止めない。
「其れにしても、めんこい鬼が来たもんだな。こらぁ大変だで。若葉っち呼んでもいいか?俺の事も右京っち呼んでくれ。これは先輩命令だでのぉ」
わしゃわしゃ、わしゃわしゃと、止まらない先輩の手。
「わか...わかりました...右京先輩、ちょ、手...」
「先輩っち呼ばれるのは好きでねぇ。わしゃわしゃやめてやらんでの」
「ちょっ...!やめ!わかりました!右京さん!右京さんでいいですか!?」
「...ん、まぁ、許してやるでの。...お、こんなことしてる場合でねぇな。ほれ、クラスまで案内しちゃるけ、離れんようについてくるんだど」
そう言って歩き出した右京さんの背に、何とも言えない顔でついていく。
顔の割に悪い妖怪ではなさそうだけど、中々強烈な人だ。
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