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「あのね!」お母さんはぼくに訴えるように強く言った。
「あの子はいつも私のことをガーガと呼ぶんですよ。幼いころからずっとそうなんです、いまも。」
ぼくは突然雷に打たれたような気がした。ガーガがお母さんの呼び名だって?今度はぼくのほうが動揺した。
電話のノイズではないのか?そんなことってあるのだろうか。
すると友人の母やたたみかけるようにぼくに言った。
「電話の相手の叔母も聞いているんですよ!だから、わかりますか?だからね、あの子は雪崩のときも生きているんですよ。あの子の声ですよ。」
何が現実なのか、ぼくは混乱してわけがわからなくなった。
渡り廊下を過ぎると広間がある。ぼくの足は固まったように止まった。
「ここです、お母さん」
そういってぼくは遺体の横たわる部屋の障子を開けた。
お母さんと友人の対面を見ることはできなかった。混乱したまま、ぼくは部屋の入り口で立ち尽くすばかりだった。
最後の石を積み上げるまで1時間かかったろうか。あのときのガーガの呼び声はいったいなんだったのか、ぼくは自分で聞いたわけではないからわからない。友の母はその後もガーガの呼び声を抱えたまま暮らしている。
この山の、この場所にガーガの出来事があったことを刻むために、ぼくはこうして、いま石を積み上げている。
遠野には不思議な物語があるという。遠野の雪女は子供を連れてやってくるという。そして大事な子供を連れて帰ってしまったのだろうか。
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