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懐かしい声がする。懐かしいけれど、知っているのとはなんだかちょっと違う声。
(あぁ、でもこれはきっと、あの人の声だ)
この声で、名前を呼ばれるのが好きだった。
「莉乃」
そう、この声。低いというより深くて、どこかかすれたような声。
「りーのちゃん」
そうそう。ときどきこうやって、ちゃん付けで呼ぶの。
それもまた、好きだった。甘えられているようで、なんだかくすぐったくて。
「りのちゃん? あら、まだ寝てるの?」
……ん? こんな話し方だっけ?
「姉ちゃん、まだ起きないの?」
(え? 姉ちゃん?)
「うん、笑ってたから起きたかと思ったんだけど」
「夢でも見てんのかな」
「そうかもしれないわね」
さすがに何かがおかしいことに気づいて、私は目を開けた。
「あ、起きた」
最初に見えたのは、自分の部屋の天井だった。
「おはよう姉ちゃん」
「おはよう。莉乃、大丈夫? 頭痛くない?」
「……」
「姉ちゃん、同窓会で飲みすぎて寝ちゃったんだよ」
声のする方に顔を向けると、弟と、あの人がいた。
奥の席で盛り上がっていた、その中心人物。
「それでアキラさんが俺に連絡くれて、連れて帰ってきてくれたの。あ、鍵出すのに鞄勝手に開けたよ」
「アキラ…」
「ん? お水飲む? お茶の方がいい?」
「アキラ…」
「なぁに?」
「嘘だ…」
「何が?」
「だって、女じゃん」
「え?」
「あなた、女じゃん」
「あらやだ。ありがとう」
「アキラは男だった。私の彼氏だった」
「そうね。莉乃と付き合ってた頃は男だったわね」
「でもあなたは女にしか見えない」
「ありがとう。嬉しいわ」
「だからアキラじゃない」
「アキラよ。ちなみに体は男のまんま」
「……」
「ちなみに僕の恋人です」
「は!?」
「姉ちゃんと別れたアキラさんの失恋相談に乗ってるうちに。そういうことに」
「嘘でしょ…」
「本当です」
「本当です」
「嘘…でしょ…」
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