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彼の強い瞳が、
なにかでにじんでいく。
目からこぼれるような
涙じゃない。
もっと──そう、
体の奥のほう……
たとえば心の奥とか。
桃さまの中の
そういうところが
決壊しそうになっているのが、
どうしてだか私にはわかった。
「生きるのに必要なことだと
わかっているのに、
この体ごとどこかへ
捨ててしまいたいと
思ってしまうのは──
わずらわしいすべてから
遠ざかってしまいたいと
願ってしまうのは」
今にも泣きそうな声で、
桃さまは私の上に
透明な黒をばらまいた。
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