生はまこと抗拒に尽きる

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  桃さまの言葉を 否定も肯定もせず、 ただ耳の奥でひっそり 繰り返し楽しんでいると、 彼はふっと溜め息をつく。 「この部屋はいいですね。 あなたの匂いしかしない」 「……!?」 「気にしないでください。 浅はかな 縄張り意識のようなものです」 喉の奥でくつくつと 低く笑った桃さまは、 どこか意地悪な響きを もって言った。 縄張り意識…… 私の部屋に ほかの男が来ていないか、 ということか。 別に疑われたわけではない。 大人同士の関係は 色々と気にすることが 山ほどあるものだ。 でも、匂いって。 匂いって。 ほかに言い方は なかったんだろうか。 「くだらないことを言って、 すみませんって。 ……杏さん、ほら」 「ん」 .
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