生はまこと抗拒に尽きる

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  見栄えがいいだけじゃなく お仕事もできて、 私のことを いいように啼かせる、 彼の指。 ……食べてしまいたい。 あらぬ欲望に ほんのり火が点いて、 意識がとろんとする。 それをどこか 他人事のように眺めながら、 私は次に桃さまが なにを言い出すのか待った。 「……杏さん」 「はい」 声になりきれない かすれた音が、 喉から漏れる。 彼のせいで 渇いてしまった喉に、 ほんのり羞恥が まとわりついた。 整った爪の先が、 私の喉を撫でていく。 桃さまの 真っ黒な瞳を見上げると、 見えない紐で 心を結わえつけられた 気がした。 「……あなたをとても好きで、 欲しいと思うのに、 どうしてなんでしょう」 「どう、 したんですか」 .
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