第1章

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「おおい、亜塔」  早速芳樹が手前のほうの棚にいた亜塔を発見して声を掛けた。その亜塔は医学書に噛り付いているところだったのだ。ついに好きの対象が人間のものにまで伸びたかと思うと、芳樹は亜塔の将来が心配だった。このままだと被害が出かねない。亜塔が猟奇殺人に手を染める前に、同じ生物分野として何とかしなければならないだろう。 「この丸さ、やはり人間が一番だよな」  そんな心配を余所に亜塔は写真に食らいついている。 「亜塔」  芳樹はちょっと引きつつも、亜塔の肩をカエル図鑑で叩いた。 「ああ、本が落下するヤツね。解ってるよ」  亜塔は渋々本を戻して合流した。本当は借りたいのだろうが、分厚くて大きいため断念したらしい。  そのまま図書室を壁伝いに進んで行くと、曲がって一番長い本棚の列に科学部が点々と立っていた。どうやらこの壁伝いに理系の全分野の本が集結していたらしい。回収する手間は省けたが、凄い話だ。要するに入り口付近にあった棚が生物医学系で、芳樹は戻って来れる範囲にいた。そして次が亜塔だったというわけだ。そこから長い部分に入って地学がある。そこは当然楓翔がいる。そして化学があり物理が続き、その奥が数学だった。おかげで千晴の奥に莉音と優我、さらに奥に迅がいるという具合なのである。 「現場もこの一番長い棚なんだ。毎回ここのどこかで発生するんだよね」  悠磨は棚を見上げて嘆いた。別に悠磨が本をしょっちゅう片付けているのは何も勤勉だからではない。ここの棚を悠磨も利用しているからだった。 「ふうん。それにしてもマニアックな本が多いんだな。ブラックホール関係もかなり充実している。こういう本って大きな図書館にしかないと思って、学校のは利用してなかったよ」  桜太は物理系の棚に移動して感動していた。そういえば優我がいつも持ってくる本もかなりの専門書だ。そんな本ばかり揃えるとは、この学校の教育方針が謎過ぎる。高校生と大学生を間違えているのではないか。
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