事の発端

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「と、その前に君の手当てをしなきゃね。足を見せて」  そう声をかけると、緑がかった黒髪の少女は赤みがかった茶髪の少女を見上げたあとにおずおずと足をこちらに差し出した。 「ああ、まだ名乗ってなかったね。僕は荻野。荻野 遥(おぎの はるか)」  僕が名乗ったのを見て少しだけ気を許したのか、黒髪の少年が「蛍乃咲(ほたるのざき)高校三年、桃瀬 ショウ(ももせ しょう)です。助けてくれてありがとうございます」と僕に頭を下げてくる。  自分としては当然のことをしたまでなのだけれど、まあお礼を言われて悪い気はしない。 「ショウくんね。他の三人も名前、聞いていいかな?」  赤茶色の髪の毛を持つ少女が手を上げて「同じく蛍乃咲高校三年! 市野 マミコ(いちの まみこ)です!」と元気よく声を上げた。それに続いて、薄茶色の髪を持つ男の子が「同じく沢井 トモキ(さわい ともき)です」とこちらに笑みを向け頭を下げる。  さて、と未だ名乗ってない少女の方を見るが、なかなかに警戒しているらしくじっと僕の瞳を見据えている。 「ナユ、です。水森 ナユ(みずもり なゆ)。助けてくださってありがとうございます。その、ここは一体――あの狼みたいなのは」  まあ、そこからだろうなあとは思っていた。彼らをこの世界の人間として見るには違和感が多すぎる。 「しっ、室長! 幻厄塔の近くで人が見つかったと聞きました……! 新種のイリューゲルかもしれません、下がってください!」  バタバタと血相を変えて走ってきた、彼らに銃を向ける白衣の男たちを諌めるように睨みつける。ようやく警戒を解いてくれはじめたのにお前ら本当空気読もうか。
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