一話

11/16
前へ
/16ページ
次へ
「ワシか……悲しみある所傍らに沿い遂げ共に嘆きなさい、と我が救世主もおっしゃられているじゃないか……ちょっと長話しを聞いてくれないか、ルカよ?」 ルロイは咳交じりに、痰がからみ声も弱々しくなっている。 反面、ルカは彼の心奥が今にも燃え盛んとしている様に感じられた。 「ええ」 「ワシは今初めて神と出会えたような気がしてならない。今知り合えたのだ。長い人生、今まで務めに務め、祈りに祈った。けれど、何かが違っていた。ずっと闇の中で、苦しかった。今、ワシは不安で暗がりにいる者達とそばにいる。訳もわからないんだが、ワシはこの今ほど神に愛されたと感じた事はないぞ……心が十全に満たされて幸せなのだ」    「ルロイさん……あなたまさか」 「左様、ワシは医療機関から見放された者達の看病を見ている内に……罹患した。悔いはないが、友人の事が心配でな……こうして爺の退屈な長電話になってしまったわけだ」 「そんな事ない!」 「長い別れの前に話せて良かった、ルカよ。アンナ様にもよろしく伝えてくれないか……君を良い方向へ導いた事を」 「良く導いた?」 「世間では賛否がある小さな福者様だが、ワシはそう思わん。彼女がなぜああいった真似をしたか、今わかったんじゃよ。それに……」  ルロイはむせ、げほげほと咳をし何かを吐き出す。 声の調子から血痰だ、とルカは直感した。 「刺々しかった君の声音が陽気で朗らかになっておる。ワシには後顧の憂いはもうないよ……それでは友ルカよ、また」 「また会いましょう」 電話を切ったルカは速やかに大教皇へ報告し、中止の旨を伝え受理された。 しかし、後にスペイン風邪をもじってイギリス風邪と呼ばれた深刻な感染症の影響を考慮し、ドイツ内のホテルで待機する事になり、アンナにもその旨を伝える。 ルカが自室に戻ると、アンナはすぐにツイッターを確認し、ツイートし……スマホを両の手でぎゅっと握り、天へ祈りを捧げた。 顔はみるみる苦痛で歪み、手足の抉られた傷が真っ赤になっていく。  ここからがアンナ達の本当の巡礼であった。
/16ページ

最初のコメントを投稿しよう!

4人が本棚に入れています
本棚に追加