一話

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ルカは今までの巡礼した支部の者に連絡する。 アンナがなにかしら物資を与えた人間が、感染症になっていないか聞くと、信じられない結果が舞い込む。 「君の言う通りだ。信じられない……信じられない、ああ神様」 戸惑いのあまり、支部の者は同じ言葉を繰り返す。 ルカは急いでアンナの部屋へ戻る。 警備兵に理由を話して、部屋のロックを解除してもらい再びアンナと対峙する。 ルカは何度も説得したが、アンナは折れる事がなかった。 だったら、教皇に聞いてみる!とルカのスマホで連絡を取り、大教皇は電話越しで歓喜の涙を漏らす。 ルカは訳もわからなく泣いた。 あんな幼い彼女は、見ず知らずの人間に自身の一部を与えようとしている。 この受難を、わずか6歳の少女に負わせるのは人間の利己そのものだ。 ……でも。 「ルカさん。大丈夫?」 通話が終わった彼女は一目散に、悔いるルカを慰める。 「……嘘をついていました」ルカは涙ながらに訴える。 「嘘でしょ?」アンナは小首を傾げる。 「あなたを福者とは認めておりませんでした。聖痕があっても、心奥では未熟な小生意気な……ガキだと。悪ガキだとみなしていました」 「それは……嫌だ。ルカさんもそう思うでしょ?」 「えっ」 「だって、悪ガキの子守りを、 ルカさんやりたくないでしょ」 彼女なりの気遣いに、ルカの涙は止まらない。 「それに、」とアンナは、いたずらっ子のように無邪気な笑みで語った。 「嘘でもいいんだよ。……実はね、ツイッターで嘘をついてるの。みんな必ず治るって。気持ちは嘘じゃないのにね」 ルカはアンナとの今までを思い返し、自分の生き方も振り返る。 自然と、一つの考えに帰結した。 かすかな光を迷いながらも、それでも信じ抜いていた事を。 アンナと自分、どちらも。 「アンナ」ルカは、法衣の袖口で涙を拭う。 「はっ、はいっ」アンナはどもってしまった。 「アンナの嘘を、私は信じ抜きます。私は、そんな生き方しかしたくない」 「うん?嘘なのに。いいの、ルカさん」 「ええ。それに、大きなホラを吹いた人がホラを信じなくてどうしますか?」 泣いた。今度はアンナの方だ。体を震わせ、その場で座り込んだ彼女はしばらくわめき続ける。 その間、ルカはずっとアンナの側にいた。 ルカは決意を固める。   ルカはアンナと共に巡礼の続行し、希望者以外巡礼のスタッフの任を解いた。
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