一話

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6 「全く奇跡なんかじゃない」(聖なる奇蹟 はじめにより) 巡礼を再開した同時期、NYタイムズスクエアの31アイスクリーム店は長蛇の列を形成し、店の看板には『重病人優先』と黒ペンキで落書きのように描かれていた。 この現象は全米の支店でも行われ、店主が自腹で無料配布していた。 同じ様な現象はグリーンランド・パリ・ドイツでも発生し、不思議な事に重病者はグミやアイスを食べると病状が回復してしまう。 他の国でも、アンナのフォロワーが重病者の元へ行き身の回りの世話を無償で行う行動が多数見受けられ、病状も小康状態へ持ち直す。 アンナの行動によって感化され、億を越える人々が自身の奇跡の分け与えを選んだ。 誰も彼も、感染症に目の前の苦しむ人間に損得考えず、手を差し伸べた。 結果として、感染症は最初期の死亡率70%を大きく下回り、ほぼ0となった。 アンナの聖痕も、アイスクリーム店の件を境に徐々に痛みも消え痕も消失していった。 聖痕が消えたため、巡礼はイギリスまでとなりアンナもただの少女になった。 単なるアンナに戻る前後で、ヨセフ枢機卿から謝罪され、大教皇から聖人認定されたがアンナは一人一人がやった事だから奇跡じゃないと断って、カンザスへ帰っていった。 ルカも枢機卿補佐の大役を任ぜられるも、ジンバブエ支部へ赴き奉仕活動を行う為丁重にお断りした。 それから三ヶ月後、ルカはロンドンの病院の病室で休んでいるルロイ神父の見舞いにやってきた。 いくつか近況を話した中で、 「ルロイさん、アンナ様の真意がやっとわかった気がしました。……全く奇跡ではないのですね」 腕組みをして、こくこくとルカは首肯する。
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