ある聖人と、嘘みたいな「暫定福者」の巡礼

一話

３　憎しみをぶつけられたのなら、愛で返しなさい（聖なる奇蹟P473）

グリーンランドは国土の大部分が北極圏に属し、約８割は万年雪に覆われている魅惑的な国だ。

人口比９０％が先住民で教国の徒でないので、大教皇ですら一度しか来訪していない地であり、今回のアンナの巡礼で現地にいる少数派の教徒は感激したようだ。

彼らには決して彼女の本心を教えない方がいい、と空港で歓迎する姿を見てルカはそう思った。

流氷が割りたいし、寒そうだから。

理由にすらなっていない理由について、ルカはただアンナに従う他ない。

何重にも防寒着を着込み、あまり立派でない現地の教会へ行き神父にアンナ達は挨拶し、ほとんど顧みられた事のない禿の老神父は祭壇の前で感激のあまり地に伏し、とめどない涙を流し続けた。

神父の異様な振る舞いに、引いてしまうアンナだったが神父の姿に感じ入り、神父を抱きしめる。

いたいけな幼子の抱擁は教会のステンドグラスから彩られた光によて、神秘的だった。

アンナは４歳で亡くなったママの真似をしていただけだった。

アンナは、昔の今のママについて思いを馳せる。