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いつものようにチャイムを鳴らせば、酷くやつれた四十路過ぎの女性が顔を出す。
化粧もせず、皺や隈、シミが露わになった顔は50歳にも見えた。半年で人はここまで変われるのか…というぐらい彼女は―この家は変わった。にこりと笑う彼女に罪悪感が募る。
…全て私のせいなのに。
そんなことに気づかない痛々しい笑顔は、「どうぞ」と私を家の中へ招いた。
****
ドアの前に立ち深呼吸をする。
もう、習慣となっていた。こうしないと入る勇気はないのだ。笑顔も作れない。パンッと頬を叩き気合を入れる。
「美智、プリント持ってきたよ。入るね。」
断りをいれてドアを開ければ、ベッドの布団が動いた。
「…ごめんっ!寝てた?」
慌てて聞けば、彼女はゆっくりと首を横に振る。そして、ふわりと笑った。
その笑顔に心がチクリと痛む。
「…いつも、ありがとう」
また笑う彼女に、にこりと返す。いい言葉が見つからなかっただけ。
細く白い腕が私を呼び、隣に座るようにしむける。それに従えば手は私の頬を包み、唇が重なった。
啄むようなキスが私の罪を消してくれるような気がして…私は。
「今日は、何したの?」
キスが終われば、彼女は今日の学校の話を聞いてくる。そして、まるでそこに自分もいたように自分の思い出のように含みながら聞いていた。
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