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 休憩を挟み、梅の収穫は無事に終わった。  一本の梅の木から収穫した実は約三十キロ。我が家の梅の木は、なかなか優秀らしい。 「青梅は梅酒と梅シロップ。黄熟したものは梅干し。傷モノは醤油漬けとワイン煮と梅エキスってとこね」 「それで、来月はシロップから実を取り出して、ジャムと梅味噌にする。酒の実は甘露煮だったな」  母と弟が成熟度ごとに分けた実の量を確認しながら、今後の予定をたてていく。 「よくもまあ、そんなに作る気になるわね」  リストアップされた梅料理の品数は、もはや頭が下がるレベルだ。  料理が不得手な私には、母と弟がこんなに張り切る気持ちはあまりわからないが、彼女らが心から楽しんでいるのはわかる。 「さあ、モタモタしていたら日が暮れるわ。みんなでさっさと洗いましょう」 「はーい」  三十キロの梅を家に上げるのは骨が折れるので、そのまま庭で粗方の下準備を済ませることになった。  青空の下、いつの間にかどこかへ消えてしまった父を除く三人で水を張ったタライを囲んで、梅を洗っていく。  水に浸かった梅は、産毛を纏っているために、表面が光を反射して白銀に輝いて、宝珠のようだ。  ヘソの窪みまで丁寧に洗い、晒し木綿で水気を拭い、竹串でナリクチを取り除く。  そうしてきれいに汚れが落ちた実を掌に置いて改めて見ると、水の中にあった時とはまた違う美を感じた。  ふっくらした曲線を描く玉に、スッと浅く引かれた線。まるで子どもが指で突いたように窪むヘソ。色も緑だったり黄色だったり、所々に赤がほんのり差して、なんとも華やかだ。 「なんだか和菓子みたい」  硬さこそ違うけれど、しっとりとした質感はどことなく似ている。 「言われてみれば、そうね」  私の言葉を受けた母が手を休め、梅を摘んで全体的に観察する。 「この時期の生菓子に梅がモチーフのものが多いのも頷けるわね」  そんな会話を間に挟みながら作業を続け、そうしてきれいになった梅が全てザルに広げられたのは、正午に近い時間になっていた。 「父さんも手伝ってくれたら早く済んだのに」  水でふやけた手で、空腹を訴える腹を押さえながら愚痴る。  当の父は、収穫後、地面に敷いていたシートを片付けている隙に行方を晦ませていた。母が作業中、何度かスマホを弄っていたから、恐らく外にいるのだろう。  結局、父が大荷物を持って帰ってきたのは、昼食直前だった。
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