第1章

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それから数年経って、職場では若干の居心地の悪さを感じながらも、もしまた信じられない現実に直面した時にはあの封筒を思い出して嘘なんだと言えばきっと奇跡が起こるに違いないと心のどこかで確信している。 恋愛は未だにしたことは無いけれど、友人と呼べるような人とは出会うことが出来たし、高校の頃と比べれば人生に対して考える悲観さもなくなってきた。そんなある日、友人に連れられて人生初の合コンに行くことになった。 元々地味だった私は、当然ながらその場の空気から浮いてしまい。肩身の狭い思いをしながら周りの人たちが楽しんでいるのを見ていた。お酒も入ってきて、冗談で男性が告白めいたことを女性陣にしていた。 みんなも冗談と解る中で私に告白してきたのは実業家の男性だった。彼は男性陣の中でも最も外見も良く、皆、狩りをするかの如くアピールをしていたのだけれど、誰も私に冗談で告白をしないのを見かねてか、彼は私に告白をした。 「好きです付き合ってください!」と笑いを堪えるように言う彼に心なしかときめいた自分と、所詮冗談で見向きもしていない癖にと思う私がいた。それでも周りの空気を壊さないように必死に「ありがとうございます」と照れながら言うと、それが面白いと思っているのか 彼は何度か冗談で告白してきた。周りの女性陣の視線が嘘と言えども冷たく感じられてきたので私は思わず「そういう嘘はいいですから」と苦笑いを浮かべながら断った瞬間、彼は私の肩を掴んで「本気ですから!」と言った。 その瞬間、私も周りも空気が固まったのを感じる。「冗談にしてはたちが悪いぞ」と外野の人がフォローをして、私も「そうですよ」といなしたのだけれど、彼の目は真剣そのものだった。 怖気づいてしまった私は逃げるようにして合コン会場のカラオケボックスを抜け出して走る。外は酔っ払いのサラリーマンが行きかっていた。男性に告白をされるのも触れられるのも父親以外に今まで一度もなかった。 お酒が入っているせいもあって上気した顔を仰いでいると、なんと告白した彼が私を追ってきてしまった。その目はお酒が入っているせいか少し眼がすわっていて怖くもあった。彼は「私じゃだめですか」と先ほどのことを言っていた。
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