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恋愛なんてしたこともなければ、男性に恋愛対象に見られたことのない私にとっては断る道理などなかった。むしろ何故、彼が私を好きになったのか気になって仕方がなかった。
それでも、彼との恋愛は彼にリードされる形で進んでいき、最終的には結婚するまでに至った。
そんな幸せの絶頂で、私は気づいたのだ。きっと私が嘘だと言えばその事実は嘘になるんだと。それならこれからの人生はきっとバラ色で悲しいことも何もない。だって、認めなければ、嘘だと言ってしまえば済むのだから。
彼の乗る車の助手席に座りながら私はほくそ笑んでいた。今までの苦労や辛さを神様がきっと見ていてくれたんだ。車が夜道を行き、山道に入っていく。彼はドライブが好きで朝日を見たいと言っていたのを思い出しながら暗い夜道を見ていた。
それから暫くたっていつの間にか眠ってしまった私は苦しさと共に目を覚ました。なんでこんなに苦しいんだろう。そう思って目を開くとそこには彼の恍惚とした表情があった。彼の手は私の首を柔らかく絞めながら嬉しそうにしている。
なんの冗談だろう。私は苦しいと声に出そうとしたが喉が圧迫されていて言葉を出すことが出来なかった。バタバタとしながら彼に手を離すように示したのだけど、その苦しそうな表情を見ている彼はとても嬉しそうだった。車のFMラジオからは最近騒がしている女性の殺人事件のニュースが流れていた。
「この時が楽しみだったんだ。愛する人の幸せな人生が崩れる瞬間がみたくなって仕方なかったんだよ。」
彼はそう言って手の力をより強く入れる。殺される。そう思ったときには既に遅かった。嘘だと云えれば何もなく済んだのに。私は嘘だと言うこともできずに、私の人生は幕を閉じることになった。
そんな、そんなの嘘だと――思いながら。
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