始発駅

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 目を覚ますと、誰も居なかった。  電車の中で、ただ一人、ぽつんと座っていた。  寝起きのぼんやりした目で周りを見回していると、ふと、違和感を覚える。  やがてその違和感の正体に気付いた。  電車の中だというのに、何も無いことだった。  普段ならうるさい位に張られた広告や中吊り、そして、注意書きの一つも見当たらないのだ。  潔癖なまでに余計な物を取り去られ、ただがらんとした車内。  ふと思い出すのは、この前の震災の時に、電車の中の広告という広告が一切取り去られた時のこと。  あの異常さは、一年経った今でもまだ記憶に新しい。  どうしてこうなったのかと記憶を遡ってみる。  学校帰りに塾に行って、それから家に帰る為に電車に乗っていた。  電車の中は、ご帰宅ラッシュで混雑していた。  運良く空いた席に座る事ができた。  そして、車内で眠ってしまったのだ。  電車は、見知らぬ駅で停車したまま動かない。  ぽっかり開いた電車のドアから見える駅のホームには、電車の中同様誰も居ない。  蛍光灯の白い灯りが照らしているにもかかわらず、薄暗くぼんやりとした駅のホーム。どこを見回しても空の色はみあたらなかった。屋根でしっかりと覆われていて、窓すらない駅のホーム。自動販売機や看板も、やはり存在していない。
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