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『扉が閉まります。無理な駆け込み乗車はご遠慮下さい』
ベルの音と共に無機質なアナウンスが流れてくる。
「降りて、早く!」
「は?」
ぼんやりとして動かない僕を見兼ねたのか、彼女は焦ったような表情で電車の中へと入っていくと、僕の腕を掴んで車内から出ようとした。
彼女に引っ張られてホームへ降りようとした瞬間、車内を振り返ると、車内から無数の白い手がこちらに向かって伸びてきた。
「うぉ!」
あまりの怖さに悲鳴が漏れる。
ホームへ出てもその手はぐんぐんとこちらへ伸びてくる。
「走って!」
彼女は僕の腕を掴んだまま走る。
「ねえ、アレ何?!」
「いいから、走って!」
彼女は後ろを振り返らずにそう叫んだ。
彼女が目指して走っているのは、50メートル程先にある階段のようだ。
階段は下へと続いている。
鳴り止まない警報音。
耳が痛くなる。
何時になったら電車のドアは閉まるんだろう?
いつまで走り続ければいいんだろう?
気が遠くなる程の長い時間を走っていたように思えた。
やっとの思いで階段の所まで辿り着く。
階段を一段、また一段、転ばないように、でも、足を止めないように、もどかしい思いで足を動か
していた。
けれど、階段の踊り場まで残り3段になった所で靴が脱げそうになり、それに気を取られて足を踏み外してしまった。
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