始発駅

5/32
前へ
/179ページ
次へ
 気が付くと、彼女を巻き添えに踊り場に倒れていた。  彼女は苦しそうに顔を歪めている。  ベルの音は、もう鳴っていない。  階段の上を見たが、白い手はもう無かった。  ホッとして息を吐く。 「いったーい!」  彼女が眉を顰めたままそう言った。 「ごめん!」  僕は慌てて謝罪する。 「本当にごめん!怪我は?!」  彼女の傍らにしゃがみ込んで状態を確かめる。  彼女は僕に見せ付けるように膝を突き出した。 「アンタのせいですりむいちゃったじゃない!どうしてくれるの?」 「ご……ごめん」 「あとで消毒液と絆創膏買ってもらうからね。あと、慰謝料にパフェも貰うから」 「ええ!?」  抗議の悲鳴をあげると、彼女に物凄い目で睨まれた。 「わ……わかった。いいよ」 「はい、契約成立。それじゃ、いつまでもこんなトコに居ても仕方ないし、待合室に移動しよっか」  彼女はそれだけ言うと、サッサと歩きだした。  僕は慌ててその後を追う。
/179ページ

最初のコメントを投稿しよう!

6人が本棚に入れています
本棚に追加