2月 Side:Toru

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静かな波が、長く伸びた砂浜に打ちよせては引いていく。 そこにはまぶしい夏の陽射しも、はしゃぐ人影もない。 はるか彼方に、くすんだ空と遠浅の海をくっきりと分かつ水平線があるだけ。 さっき見た映画のワンシーンだ。 木曜日の21時。 観客はいつも通り3人しかいない。 映画の冒頭、中年の夫婦がヴァカンスを過ごすため、フランス南西部の別荘に赴く。 誰もいない砂浜に並んで座る。 夫は妻の背中にオイルを塗ったあと、立ち上がって海の方へ向かい、妻はその姿を見送ることもなく眠ってしまう。 妻が午睡から目覚めたときにはすでに、夫の姿はどこにもなかった。 妻は警察に捜索を依頼し、誰もいない別荘で不安な一夜を過ごす。 到底ヴァカンスを続ける気にはならず、自宅のあるパリに戻る。 パリでの彼女は友人との食事会を楽しみ、エクササイズに励み、ショッピングを楽しみ、仕事にも行くが、どこか危うげだ。 夫が行方不明になっていることを知っている友人たちが現実的な忠告をしても、彼女の耳には届かない。
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