第1章 眠り姫に誓いを

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終始、沈黙の時間だけが淡々と過ぎ行く。闇雲に歩き回る訳にも行かず、恐る恐る警戒心を強めながら慎重に長い廊下を歩く。後ろには颯が着き、折れた翼を庇う様に片手で支えていた。何時までも部屋に居る方が返って危険な気がして、私は彼を連れて怪我を治療出来ないかと城内を見渡す。 広々とした空間は、長い間使われていた形跡が無く、明らかに人気がしない。無の境地と化した此処は最早廃墟に近い様に思える。眠り姫、基。姫梨の姿さえ一向に見当たらないが、一体彼女が目覚めたとはどう言う事なのだろう。 「颯、さっきも訊いたけど。眠り姫って何者なの?」 「魔操城(まそうき)のコア何だよ、つまり姫梨は……」 「颯、黙って。それ以上の深追い発言は許さない、私から話すから部屋に戻って」 「魔操城!どうして此所に、君は地下に居た筈……」 「聞こえなかった?席を外せと言った、逆らう気なら。容赦しない」 その声は、凍てつく様に冷たい。まるで氷の女王みたいに、そして彼女は最初に会った時とは全く態度が違っていた。これが彼の言っていた眠り姫なのだろうか、冷静沈着としたクールな性格は何処か未央とは似ても似つかない豹変ぶりだった。服装は胸部に石が嵌め込まれている、しかし妙に其れは禍禍しさを纏っていた。 そして見覚えさえある、恐らくは数年前に発掘された謎の鉱石だ。その石の名前は確か、魔操石。その時点で思い出した途端、姫梨が不敵に笑みを浮かべて自身のドレスの裾を捲り上げ、華奢な両足を魅せた。だが見た瞬間、私は絶句してしまう。 そこには、皮膚では無く陶器の肌があった為だ。更に驚く事に彼女の左脚には被験体の番号が書かれている、No.は0。明らかに人では無い、機械人形ビスクドールが目の前に立っていた。 「姫梨は、ロボット……?」 「違う、元は人形。人間を素材に造られた」 「どう言う事?」 「此所に居る、彼は少し違う。私は唯一のコア、颯は機械との組み合わせで蘇った」 「そんな事、信じられる訳無い……」 私は頭が混乱し、思わず本音を口に漏らす。けれど姫梨は苦笑を浮かべ、正しい答え。と囁き、頭を撫でて来た。半ば錯乱とした思考は、彼女の見せた微笑みのお陰か妙に安堵して行く。不思議と気持ちが和らぎ、警戒心さえ消えてしまう。未央に、似ていたからだろうか。 (未央とは、違う筈なのに。どうして……)
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