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穏やかな気持ちに戻り、私は写真に映る未央を見つめた。こうして並べて見ると姫梨とは双子の様だ、しかし彼女達の中心に居る女性は誰なのだろうか。ふと、考える。この人が自分の母親、其れは運命の悪戯か、不思議と察してしまう。母子の絆は、きっとそれ程迄に強く結ばれていた。だからだろうか、途端に見た事がある気がした。
「っ、ママ……」
無意識に、そんな言葉が口から溢れた。私は泣いた、そして母親の顔を初めて目にし、何とも言えない想いに胸が締め付けられる。本当は分かっていた、眠り姫と呼ばれる存在の人は誰かって事。気付いてた筈なのに、目からはとめどなく涙が溢れる。
生れた最初、子が初めて呼ぶ大好きな母。なのに自分は今も、この世界をさ迷っている、帰りたいのに叶わない儚き祈りは神に届くのだろうか。切に願う、今日もまた、あの日の後悔とどうしようも無かったもどかしさを思い出す。
四十九日、其が魂がこの世に滞在出来る期間。その時間とは、あまりにも短い。何故あの時、自身は死んでしまったのか、もっとやりたい事だって沢山あったのに。友達とか作りたかった、それと家族ともっと沢山一緒に居たかった。
「姫梨は、私が作り出した幻……?」
「……」
何も答え無い、少女は無言のままに頷く。だけどどうして、姫梨は私の記憶を知っていたのか。判らない、なのに彼女は終始黙っていた。まるで声が出ないみたいに、失音としたこの子は後ろを向いている。軈て、目の前で霧の様に消えて行く。
「待って、姫梨。どうして、私の前から消えるの?」
「どうしたんだよ?」
「っ、颯!」
「何かあったのか?」
「姫梨が、居なくなっちゃったの……」
私は思わずそう答える、すると彼は首を傾けて暫し話しを聞くと何かを思い出す様に頷く。否や、颯は言った。そっか、ただそれだけを呟くと同時に手を差し伸べる。咄嗟に握ると、何故だか感覚が全く無い。しかし、この時はまだそんな些細な異変等気にしていなかった。
多分、優しげな少年の笑顔に疑いさえ抱かなかったからだろう。けれどそれでも良かった、一人では無い事の方がまだ寸分ましに思えた為だ。実感出来たなら、きっとこの手は暖かいに違い無い。
「ねえ、颯?ありがとう……」
「急に、どうしたんだ?」
「ううん、何でも無いわ。ただね、嬉しかったから……」
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