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もう、帰り方何て忘れてしまった。どれくらいに、私は夢の世界に居続けたのだろう。未央を探そうと追って来たのに、気付けば自分が迷子だ。挙げ句に死にそうにもなった、出口はまだ見当たらない。颯は天井を仰ぎ、ふと背を向けていた体勢を解き、此方に振り返ると嬉々とした笑顔を向けた。
確かに矛盾しているかも知れない、私がそう小さく呟くと彼は苦笑を浮かべる。けれどまた直ぐに笑い、長い通路の方へ歩みを進めた。一瞬だけど、握った手が今でも脳裡を過って消えない。何だか気恥ずかしくなり、名残惜しくも自身の手のひらを見つめた。
「帰りたいよ、本当は。けど未央を探さなきゃ、それに私だけなの。唯一のあの子の家族は、だから見付けなきゃ行けないわ……」
「好き、何だな。妹の事?」
「えぇ、家族として。恋愛感情とはまた違った意味で……」
「兄妹何て居ないしな、俺には分かんない。けど、誰かを救いたい気持ちは伝わった」
「そう、颯は優しいのね?私の事を理解する人間なんて、匆々居なかったのに……」
正直、私の発言は支離滅裂としている。にもかかわらず颯は相槌を打ったり表情を豊かにして話しを聞いてくれていた、そんな様子から昔の事を思い出す。ふとした時に、傍に居た大切な親友。其が誰だったのかは、五年も前で覚えてはいない。そして、その人物は少年だった気がした。
曖昧且つ、不的確でしかない証明何て出来る筈も無い。当然の答えだ、しかし私は確かに誰かと居た事は鮮明に覚えている。 だが何故、自身はこの夢の中に取り残されてしまったのか迄は判らない。妹を追って、学校の踊場階段の前で互いに声をかけた。ここまでは、多分正確な記憶だろう。
何と無く、未央が心配になって着いてきた。確かそんな矢先、複数の女子生徒達が彼女を突き落とした。この日は何時もの様に校舎内で待ち合わせた為に、私のせいで妹は死んでしまった。恐らくは転落して、即死だったのだろう。
「あれっ、でも可笑しい。私はどうやって未央の傍に行ったのかしら……」
「どうした?鏡花、顔色が悪いけど……」
「私、未央を庇おうとして。一緒に落ちたの、大変。カエラナキャ……」
「全部思い出したんだ、お姉ちゃん?」
背後から未央の声がした、私は震えた拳を握り締め、意を決して振り返ると。其所には血を流した妹が立っている、階段から転落した姿で。
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