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私には妹が居る、一つ違いの彼女は自分にとっては大切な唯一の家族だった。そして憧れの存在でもある、結城未央とは仲の良い絵に描いたみたいな姉妹だ。クラスでは容姿の良さからか男子にも人気が高い、地毛の黒髪は肩位の所で切り
揃えられている。
今日は何時もの様に、踊場階段で未央と待ち合わせをしていた。服装は勿論学生服だから直ぐに分かる、その筈だったのだが妙に彼女の帰りが遅い。現在の時刻を所持していたスマホから確認すると、既に午後5時を過ぎていた。
何かあったのだろうか、ふと、心配になって周りを見渡す。否や、複数の下級生達が此方に向かって来る。慌てて壁の後ろに身を隠す。こう見えても私は対人恐怖症だった、その為に遠くの方から訝しげに彼女達の様子を伺っていた。
『ちょっと、うざいんだけど?あんたさ、生意気何だよね』
『クラスでさ、男子達の視線集めてる女って、むかつく』
「あ、あの。私何か悪いことしましたか……?」
狼狽える未央、けれどその仕草さえ気に入らないのか三人位の女子達が彼女を見下すかの様に乾いた笑いを漏らす。妹は何も悪く無い、なのに同じクラスメイトが取巻きを作って一人の生徒を追い詰めている。
止めてと、言いたい。だがどうしても言葉に出せない、対人恐怖症何て無ければ良いのに。私は目の前で見て居ながら助けてあげる事も出来ず、その場で呼吸を乱しながら身震いしていた。
息が苦しい、目眩がする。まるで水中に居るみたいで心さえ締めつけられている。否、辺りに漂う空気が異様に重々しかった為なのかも知れない。
(っ、止めてよ。誰か未央を助けて……)
戦慄とした恐怖に、怖じ気付くばかりか今にも意識を手放してしまいそうだ。挙げ句の果てには、自身は他人に下がろうとしている。最早勇気の欠片も無く、翻弄と心理的な病に蝕まれていた。
『どうなんだよ?あんたは雌猫か、モテる事を。当たり前とか自画自賛してんじゃないかよ!』
「ち、違います。私はそんなつもりは有りません……」
『人間共、何故争う?』
気のせいだろうか、 人成らざる者の声がした。まるで地の底から響く様なそんな言葉に、不意に振り返る。 矢先、突然に女子生徒の一人が、未央を階段から突き落とした。 一瞬の事に、思わず彼女の傍らに駆け寄って行く。
だが、間に合う筈も無く妹は即死してしまった。
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