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彼女を憎んではいない筈なのに、懸命に笑って見せたつもりだった。けれど悔やむ想いだけは消えない傷痕を残す、決して癒えない気持ちの傍らで自身は自暴自棄気味に薄ら笑いを浮かべる。其れは心中だけで、表には出さない。もしも素直になってしまえば、私は姫梨と言う子を苦しめてしまうからだ。
感情を圧し殺し、ただ無の境地に心を隠す。それが亡き妹への責めてもの償いになるのなら、自らは進んで従う。軈て時間だけが無駄に過ぎて行き、次第に相次いで目を覚ます女子生徒達は全員が虚ろに此方を見やる。視線の先には、紗己夜見姫梨が立ち竦んでいた。
『あ、あんた。何で生きてんのよ、確か階段から足踏み外して落ちたんじゃないの?』
「……ふふっ、何でだと思う?答えはね、あなた達に復讐する為だよ」
『ゆ、許して、お願いだからっ……』
「良いよ?けど、一つ約束して。私が幽霊だって事、誰にも口外しないってさ……」
睨む眼光には、妖しげな光が宿っていた。明らかに殺気を帯びた表情は、最早笑ってはいない。本気の様子からして、どうやら相当彼女達を脅したいらしい。しかし、やはり未央とは正反対の性格だ。妹は少なからず、他人や知人を貶める等寧ろ嫌っていた。
私は察する、彼女紗己夜見はとてつもない小悪魔な少女だと。顔が瓜二つでも態度が全く違う、何時かはばれるのも時間の問題かも知れない。 だが影武者を頼む他に、良い案は思い浮かばなかった。半ば仕方無く、多少無理強いかも知れない。
駄作点の多い、そんな思案にしか至らない自身にだんだんと腹が立つ。私はため息を吐き、自らの考えに自信を無くした。しかし姫梨は案外乗り気で、女子生徒達を戸惑わせている。
「未央、もうその辺で良いわ。早く家に帰りましょ?」
「はーい、分かったよ。お姉ちゃん、またね。姑息者さん達?」
『ひ、ひぃっ……』
踵を返して、紗己夜見姫梨はにこやかに微笑みながらそう囁く。小さな悲鳴を漏らし、女子生徒等はそんな彼女に対して恐怖と深い絶望を抱いた。ひきつる顔としかめっ面な少女からは、威圧感だけがひしひしと伝わる。 本人は気付いてかわざとか、笑っていない眼を不気味に細めていた。
ニヒルな笑みか否か、妹と似た彼女は相も変わらず不慣れ気に表情を繕っていたのだろう。まるで氷の様な視線で見られる、いや、見つめられると背筋が寒くなり出す。
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