第1章 眠り姫に誓いを

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声無き言葉で、姫梨は笑むと同時に長い髪を自身の指先でかき上げる。そんな仕草さえ、未央に似ていたのが皮肉に思えてしまう、そして何時の間にやら鞄を手に、すっかりと馴染んだのか制服姿のままに彼女はくるりとその場で回転すると再度女子生徒等を見て笑う。妖艶な表情からは、感情が分からなかった。 クラスで人気者の妹は、もう面影さえ無い。すっかり変わり果てた目の前の少女は全く違う他人であり、異界からの訪問者に過ぎない。 「鏡花お姉ちゃん、ごめんね。私よく解らなくて、でも未央ちゃんって子、多分探せると思うよ!」 「えっ、本当に?」 「うん、確信もあるよ、だって現に私達は次元違いの世界。ノットワールドから来たから」 彼女はやはり別の場所から来た、其を確認出来て私は妹が生存している可能性を信じる事にした。だがまさか、この子との出会いは必然的だった事を自分はまだ知るよしも無かった。そう、この時迄は。 ノット(違う)の意味だ、その名の由来はかなり不釣り合いに限りなく近い様で遠い。不安だった、もしも未央が死んでいたらと思うと胸が痛む。良心と共に、女子生徒達に怒りの感情をぶつけたくもないのだから兎に角、紗己夜見姫梨を信用したかった。 消せない、僅かに沸き上がるフツフツと立つ神妙な気持ちはどうにも隠せそうに無く、ただただ無性に切なく思えた。 大切だと心で想うも、其さえ見無に変わって行く。無意味でならない、この会話の中に偽りは幾つあるのだろうか。 一体後、何れくらい泣けば妹に会えるのだろう。もう数分と涙が眼から溢れ、止めどなく流れている。寂しさと恐怖に身を抱き、夕焼けに落ちかけた空を軽く仰ぎ見て、フッと小さく思想に浸った。 校舎から見る景色は、黄昏時に染まって行く。 そんな一日の終わりを視て、益々どうしようもない焦りが募っていった。なのに酷く冷静に、私は少女に笑いかけている。 「一羽の鴉が飛び、新たな世界の出会いと。もう一人の姉に対し、私は感動してるよ、お姉ちゃんにも見せたい。けど、帰り道は分からない、自分の名前だけが記憶に刻まれてたんだ」 「詩文?」 「うん、私達はこうして記憶してくの……」
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