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「……まさかね、違うわよね?」
問いかけは誰に訊く訳も無くただ自身に対してだったのかも知れない、しかし答えは静寂だけが返っていた。その為に余計に緊張が走る、死ぬ間際となった少年は両翼を片手に触れて顔をしかめた。
「ぅん、鏡花。そっちは危ない、逃げろ……」
「っ、やっぱり私の名前を知っていたのね。颯(そら)」
「っ、君は誰だ、僕はどうしてこんな所に?」
「三年も前よ、忘れちゃったよね。少し残念だけど、仕方無いわ。あんな事があったんだから……」
「っ、あ。頭が……、うぅ。僕は一体何をしてたんだ?」
偏頭部を抱え込み、不安気に此方を上目遣いに見やる。次第に彼は落ち着きも無く室内を見渡し始めた、宛らにその姿は野生動物の様に強く警戒して身震いをしながら慣れない環境に対して恐怖しているようだ。
何故地上に亜種が現れたのか、そして彼は何者なのだろう。やはり不可解な点が多すぎる、思わず口走って、私は少年にこんな質問を投げ掛けてしまう。其れは存在意義を訊いた、よりにもよって此の場で問い質した事に自身さえ多少狼狽えているのは百も承知の上だ。
口元に手をあて、驚愕した時には既に翼人の彼は訝しげにしかめっ面を浮かべ明らかに不快感を表に出していた。だが少年は少し何かを考え込む仕草を見せると眼を伏せ、沈黙のままにある一点を指で示す。しかしそこは、窓があるだけで後はなにも無い。
「窓の事……?」
「違う、天(そら)だよ。僕等はあの場所から来たんだ」
「えっ、それってあなたは。天界から来たって事?」
「天界か、随分古い言い方だな。僕達の言葉で表すと、ノットワールドだよ。姫梨から聞いただろ?」
「え、だって羽あるし。あの子は種族だって違う風に見えたけど……」
頭が混乱してきた、何がなんだか判らなくなりそうで私は咄嗟に少年の言葉を否定する。すると彼は失笑混じりに肩を竦め、自身の髪を掻き乱すと、くしゃりと柔らかな笑みを浮かべた。次の瞬間、身体が宙に浮上して行く、驚いて真下を見やると、茶色く鷹の様な両翼が視界を覆う。
否や、酸素が薄くなり、意識が遠退いて行くのを感じた。何が起きているのか思案したいが、最早酸欠しかけた空間の中では思うように身動きさえ取れない。そして徐々に睡魔が襲うと、私は瞼を閉じた。
――間も無くして、目を覚ますと、そこは古城だった。
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