第1章 眠り姫に誓いを

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古い風情がある、灯りはテーブルの上に三本の蝋燭の燭台からちらちらと火が点っていた。周りには黒ずんだ埃と、壁の上部に蜘蛛の巣が張り巡らされている。煤で焼けた蹟の様だが、過去に火事でもあったのだろうか。ふと、室内を見やる内に、茶色い重造そうな扉を見付けた。 何やら嫌な予感がして、恐る恐る扉の取っ手部分を握りながら回す。しかし、同時に、ガチャッ。と無機質な音がして扉を何者かが向こう側から閉めてしまう、否や居たたまれない恐怖に、本能が逃げろと早鐘を打った。 「嘘、開かない!」 ドンッ 扉を叩く、だが其れは私では無い。誰かが向こうから必死に此を開けようとしている、思わず耳を壁越しに澄ますと、聞き覚えのある声がした。 「っ、眠り姫が目覚めた。君は此処から早く逃げろ!」 「逃げろって、無理よ。扉が開かないんだから……」 「ちょっと下がってて、僕が何とかする!」 ドンッ 扉に向けて、振動が走ると同時に見覚えのある少年が両翼を生やした姿で一室に駆け付ける。しかしその容姿は体当たりをした為に片翼を失った少年で、元気そうだった様子の面影さえ無い。明らかに表情は浮かばず、何処か暗い顔をしていた。折れた右翼からは、羽が何枚か剥き出しに骨が出ている。 だが、其れは人骨でも、野鳥の物でも無く無機質なコードや複雑な機械で出来ていた。明らかに分かるのは、彼が半分ロボットだと言う事だ。直視してしまい、咄嗟に息を飲むと私は自身を抱きすくめながらある話しを思い出す。 大規模な人体実験、それは2030年の去年から行われたと新聞の記事に掲載されていた。たった一年間でまさか、これ程までに科学は発展したと言うのか。 だとすればこの少年は、元は死体だった事になる。 因みに実験の内容は、人間の蘇生を目的とされた。 「でも、どうしてあなたが?」 「……覚えて無いよな、君は何も。なら知らない方が良い」 「ねえ、眠り姫って何者なの。何で未央と似ていたの?」 彼(颯)は答え様としない、頑なに何かに怯えるかのようにただ口を重く閉ざしていた。 恐らくは話すつもりは無いのだろうと私は察し、深くは追及しなかった、けれど本音を言えば妹についてを知りたい。例え其が彼女の運命であっても、突然に家族を失ないたくは無い。 踊り場階段にて、消えた。未央は今どうしているのか、それだけが求める答えだ。
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