それだけの話

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雨が降ってたから、傘をさして家を出る。あたしの屋根は雨水の下でバタバタ音を立てる。 最近毎日憂鬱。髪が跳ねるし、ローファーは泥々。 あたしの住む場所にはあんまりアスファルトがない。ちょっと広めな道路にしかない。信号は小学校の前にしかない。道が真っ茶な辺鄙な農村。 人は少なくて、同級生なんか四人しかいない。あんまり仲良くない。あ、でもその内の一人とは仲が良い、かも。 あ、雨が上がってた。傘を閉じて丸めた。少し先に仲の良い一人が見えた。重い雲が空の中で散っていた。不意に高い声がして振り返る。あんまり仲良くない二人がいた。 「一緒に東京に行けるね!」黒髪が光る。 「二人で絶対! 夢叶えよ!」明るい髪をうねらせて飛ぶ。 眩しい。バランスを崩して泥まみれの二人を見る。あの二人はこの村が好きじゃない。あたしはこの村が好き。真っ茶っ茶の道で待っててくれるアイツと過ごしたこの場所が。 それだけの話。
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