彼女について

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 声が聞こえた方へと視線を向けると、如何にもな格好をした僧侶的な人が立っていた。それに、本で口元を隠しながら目を細める。  面倒な事になりましたね。 「なんでしょう?」 「あなた、厄介なものに取り憑かれておられるようですな」 「厄介なもの?」 「隣に居るその女、この世のものではないでしょう」  ギラリと細められた僧侶の瞳に、空気がピリピリしたものへと変わる。 「それは、」 「な、に!? よく分かりましたね!? というか、え? 見えてるの?」 「空気を読んでください」  空気をぶち壊した彼女は、座るのを止め、ふわりと浮く。  僕の頭上で浮く彼女に、僧侶的な人は表情を更に険しくした。 「貴様、名は?」 「分かりません! 因みに、歳も何処から来たのかも何もかも忘れました!」 「ぬ、ぬぅ……」 「止めなさい。困っているでしょう」 「何で!?」  そう、彼女は出会った時から、名前も年齢も何もかもを忘れていた。なので、僕は心の中で彼女のことを“彼女”と呼び、“あの”“ねぇ”と呼び掛ける。  特に困らないので、僕は気にしませんが。  もう読書どころではなかったので、致し方ないと、本を閉じてベンチから腰を上げる。 「ま、待ちなさい! 私が今すぐに徐霊して差し上げる!」 「徐霊ですか」 「え? それって私、成仏出来るってこと?」  彼女の嬉しさの混じった声に、思わず眉が寄ってしまった。
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